「変身」 カフカを、舞台のように。

カフカの同名の小説を原作とした、2002年の異色のロシア映画、「変身」。


グレゴールという男がある朝目覚めると、その体が毒虫に変わっていたという、言わずと知れた不条理劇だが、この映画では虫になってしまってからの姿も、人間の姿のままでグレゴール役の俳優が演じている。


アメリカ映画ならほぼ間違いなくCGを使うだろうというところをすべて人間が演じる分、舞台演劇のようだ。理由も解らぬまま突然体が虫に変化してしまい、それまで自分を大事にしてくれた両親や慕ってくれていた妹から忌み嫌われ、孤独と絶望の淵に転落していくという、強烈な不条理を描いているが、なんせ虫、もちろん喋ることもできず、ひっくり返るとなかなか起き上がれずにもがき、粘着質な痕跡を残しながら壁を垂直に登る。これを俳優自身がザワザワと指を動かしながら這いずり回って演じているわけだから、シュールと言おうか何と言おうか、ただただ呆然とスクリーンを見つめてしまう瞬間もしばしば。一歩間違うと笑ってしまうような、異様な雰囲気を漂わせながら鬼気迫る演技を披露する主人公と、いくら大事な息子といってもこんな姿になってしまってはもはや息子とは言えない、これではみんなまともな生活ができないと、虫を怖がり排除しようとする家族。あくまで悲劇なのだが、それを見る観客としては笑っていいのか悲しんでいいのか…とさえ思ってしまうほど、不可思議な空間が展開する。ほかにはなかなかないであろう、かなり風変わりな作品だ。


主人公が虫に変化してしまう前の晩、人間の状態の時も、机の上の物を触ったり髪を直したりというちょっとした動作が執拗にクローズアップされて細かく描かれることにより、なぜか纏わりつくような違和感を醸しだしている様と、虫となって目覚める直前に見る、シュルレアリスム絵画のような不安感漲る夢の描写は秀逸。






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