「ナイロビの蜂」 裏側にうずまく闇。
THE CONSTANT GARDENER
2005イギリス
監督:フェルナンド・メイレレス
原作:ジョン・ル・カレ
出演:レイフ・ファインズ
レイチェル・ワイズ
ビル・ナイ
ピート・ポスルスウェイト
ブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」で評価を得たフェルナンド・メイレレス監督作で、レイチェル・ワイズにアカデミー助演女優賞をもたらした「ナイロビの蜂」。
アフリカ駐在の英大使館員が、救援活動や政治運動に熱心だった妻を何者かに殺害され、事件を調べるうちに製薬会社と政府の癒着が背後にあることを知る。
「ナイロビの蜂」という邦題は、巣を表す六角形の中に描かれた3匹の蜂の絵がトレードマークの劇中の製薬会社、スリー・ビーズ(three bees)のことだろう。レイチェル・ワイズ演じる妻テッサが、殺害される前、ビル・ナイ演じる外務省のアフリカ局長ほかスリー・ビーズに絡む人々を“蜂”と揶揄するシーンがある。
人命を犠牲にしても、もはや何も感じない程に麻痺した人々が描かれる物語の中、何も知らずに空から見ればこれほど美しいものはないとまで思わせるアフリカの大地が、同じ画面に映し出される。
そこは貧困と内乱の地。劇中でも、病の蔓延と死亡率の高さゆえに西欧社会に食いものにされ、さらなる悲劇にさらされる。アフリカの命は、他国人と同じには扱われない。
空から見れば、その大地は美しい。しかし降りれば地獄だ。
レイフ・ファインズ演じる主人公ジャスティンは、手が触れるほどのところにまで迫りながら、その巨悪にうちかつことはない。たしかに、最後にはひとつの決定的な証拠があかるみに出るが、それだけで急にアフリカの窮状が救われる訳でもなく、すでにその場にジャスティンはいない。
この映画は主人公を、すべてに決着をつけるアメリカ映画のヒーローのようには描かなかった。しょせん“正義”になすすべはなく、やがて限界は訪れる。
巨大な力や組織を前に、1人の人間はいかに無力であるかということへの絶望感と虚無感を、主人公ジャスティンをヒーローとして描かないことによって表し、それがこの映画を記憶に残るものにした。「ナイロビの蜂」がもし、ヒーローが悪を倒すようなストーリーなら、ほかの多くの映画に埋もれてしまっただろう。
すべてが解決できるわけではない。それはあまりに悲しいが、事実だ。
06.5.14