青いパパイヤの香り」

L'ODEUR DE LA PAPAYE VERTE
1993ベトナム=フランス
監督:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イエン・ケー
    リュ・マン・サン



かつてベトナム制作の映画として初めてアカデミー外国語映画賞にノミネートされた「青いパパイヤの香り」。


舞台は1951年のサイゴン、夜のシーンで始まる。10歳ほどの少女ムイが奉公人としてある家にやってきて、それから10年、その家の暮しを見つめ、ある時から少しずつ人生が変わっていく様を 起伏なく、淡々と描く。


ぬめるような触感まで感じさせる映像美。まとわりつく湿気をも含んだかのごとき画面は、しかし暑さは感じさせない。あまりに静謐な映像に、陶器を触った瞬間のひんやりした感触を思い出す。


ひそやかな話し声や、虫の音、そんな音の中で時間が過ぎる。庭の植物や、料理をする様子、部屋の調度。日常のものが静かに映し出される。静かで、しかしそれはまるで、そのものが時間とともに朽ちてゆく姿まで見届けようとしているかのようだ。


そして、ある時そこに、日常ではない、日常とは異質な“美”を現出させる。


異形のものを見ているような、異形のものの中にある美を見るような瞬間が、ふいに訪れるのだ。少女の漆黒の髪を見ていてさえ。







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