映画日記/記録

“Oh Captain, my Captain!” - 「いまを生きる」( Dead Poets Society / 1989 アメリカ / 監督:ピーター・ウィアー )

「イースタン・プロミス」

EASTERN PROMISES
2007 アメリカ=カナダ=イギリス
監督:デビッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン
    ナオミ・ワッツ
    ヴァンサン・カッセル



ロンドンで、本来なら何の関係もなかったはずの助産師とロシアンマフィアの運転手が出会う。救急で運ばれ、結局息を引き取った少女が、その組織の被害者であったからだ。


クローネンバーグ監督の前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」もそうだったが、今作でも、その暴力描写、血と傷が生々しい。たとえばホラー映画で、観客を怖がらせることを主眼に置き、娯楽性を重視した作品の、少々いきすぎた描写など、いつも平気で見ているのに、この作品の、強烈に“生身”を意識させる血と傷からは、思わず目をそむけたくなる。


また、マフィア内部の人間関係の描写も濃密だ。


食堂のオーナーという表の顔を持つ非道なボス。およそ跡継ぎの器にないのに、虚勢だけは張る、マフィアというよりせいぜいチンピラどまりの、ボスの息子。そして、不気味なほど胆のすわった謎多き運転手、ニコライ。ロシア語と腹のさぐり合いが入り混じるマフィアの世界のこの3人のシーンは、思った以上に、複雑な感情の絡みを見せる。


極端な暴力描写以上に、むしろこの様々な感情や秘密、裏切りが渦巻く人間関係の描写こそが、この映画の魅力とも言えるのではないだろうか。残酷で、目をそむけたくなるシーンも多々あれど、それ以上に妖しい魅力を持っている。


人物造型も魅力のひとつだろう。今年のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされた、ヴィゴ・モーテンセン演じるニコライ。かつて演じた、優しさと人間味あふれる騎士の影など完全に消し去り、静かな中にも怖さを秘めた低音の声でロシア語を話す様は、異様な空気を醸している。


そして、バカ息子っぷりも見事な、ヴァンサン・カッセル演じるキリル。マフィアにも例外なく、大物の2代目に限って…、というやつか。自分を大きく見せようと、常に虚勢を張っているものの、妙な嫉妬で荒れたり、ボスの余りに非情な命令に涙を見せたり(本当に酷い命令なのだが)と、感情のコントロールがまるで出来ない。そこでニコライが、なだめたりすかしたりご機嫌とりをすれば、ニコライに対して特別な感情を持っているという弱みがあるとはいえ、あっさりそれに丸めこまれる。ヘタしたらいいヤツなんじゃないかと思ってしまうくらい、“マフィアとしては” 使えない、小物の2代目を演じるヴァンサン・カッセル、これがまた実に巧い。ここ最近でも出色のチンピラ演技ではないだろうか(そういえば、ヴァンサン・カッセルは「バースデイ・ガール」でもロシア人役だった。そんなにロシア人ぽいんだろうか)。


後半、唐突にシリーズものの香港映画を思いだして、あれ、と驚くようなシーンもあり(それまでの流れにすっかりはまって見ていると本当に驚く。作品のテイストはまったく違うのだが)。


この映画の、へんに説明的でないところもとてもいい。






08.7.30