「クレーヴの奥方」 “サラブレッド”の美。

LA LETTRE
1999 ポルトガル=フランス=スペイン
原作:ラファイエット夫人
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:キアラ・マストロヤンニ
    ペドロ・アブルニョー
    アントワーヌ・シャピー
    レオノール・シルヴェイラ



件のマノエル・ド・オリヴェイラ監督特集。見たことのある作品ももう一度、今回の上映作すべてを見たいが、すべては見に行けないのでせめて未見のものだけでも、ということで見に行った「クレーヴの奥方」。


300年以上前のフランスの恋愛小説が原作ということだが、映画の舞台は現代のパリ。クレーヴ夫人を追いかける男性は、ヨーロッパ全域にその人気を誇るという、ペドロ・アブルニョーザが実名で演じる(音楽にうといせいでよく知らないのだが)。


そして、主人公であるクレーヴ夫人を演じるのは、キアラ・マストロヤンニ。この名前だけで、女優の父が誰であるかを推し量れるというものであろう、父はマルチェロ・マストロヤンニ。そして母はカトリーヌ・ドヌーヴ。それこそ、超のつくサラブレッドと言えよう。


このクレーヴ夫人=キアラ・マストロヤンニがとにかく美しい。マルチェロ・マストロヤンニ作品をそれ程は見てこなかった者がこんなことを言うのもなんだが、お父さん似であると思う。実に端整で、父似のくっきりした目元に見合ったその視線と、直線的な唇のせいか、はっきりきっぱりした強い女性風に見えるが、喋るとその印象が変わる。声の柔らかさのせいもあるかと思うが。そしてその端整な容貌に、古風な女性として描かれているこの映画での人物像と、クラシカルないでたちもあいまって、なんとも言えず美しいたたずまいだ。


そしてこの映画は、様々な対比でできている。


古典小説を原作にとりながら、主人公の女性に恋い焦がれる男性はロックミュージシャン。現代のパリの街にあって、見ようによっては違和感を感じるほど古風で上品でエレガントな主人公の装い。古典が原作だからということとは関係なく、現代を舞台とした上で、なおかつ主人公を “今の時代にしてはかなり古風な考えの持ち主” として描き、これだと夫以外の男性と駆け落ちしてしまうような、ある種現代的と言える結末にはならないだろうと思っていると、最後には、アフリカの難民キャンプで活動するため旅立つ、という、予想とは違った形での、しかしそれとて現代的と言える行動をとった主人公を描いて終わる。


この 古典と現代、古風な女性が現代的で行動的な女性へと変貌した姿などの対比が面白い。そのバランスの妙。

マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶」というドキュメンタリーがあるが、マルチェロ・マストロヤンニのかつての映画の映像や、インタビューに答えた時の映像(これがまた実に素敵)とともに、多くの映画人がマルチェロ・マストロヤンニその人について語り、娘であるキアラも父について語っている。


これを見ると、今まで見る機会のなかなか巡ってこなかった彼の作品群がむしょうに見たくなるのだ。この秋には「8 1/2」がある。まずはなんとしてもこれを見たい。


ちなみに、マルチェロ・マストロヤンニの遺作となった作品の監督は、マノエル・ド・オリヴェイラ監督だった。




08.10.1