「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」

I COME WITH THE RAIN
2009 フランス
監督:トラン・アン・ユン
出演:ジョシュ・ハートネット
    木村拓哉
    イ・ビョンホン ほか



かつて猟奇殺人犯を文字通り命がけで追い、それゆえに心身ともに蝕まれ、いまだその深い傷をもったまま、癒えることなく生きる、もと刑事の探偵。億万長者の親元を離れ、身ひとつで孤児のために働きながらも、“人の傷を癒し、かわりにその傷を自らに受ける” という特殊能力を持ち、恵まれない人々に求められるがゆえ、自らの傷をどんどん増やして生きるアジア系の青年。


そして、木村拓哉演じるアジア系青年の捜索を依頼されたのが、ジョシュ・ハートネット演じる探偵、なわけだが。


この2人のエピソード、それぞれ別々に1本の映画にしてもそれはそれで成り立つ、というほどに絡む必然性が感じられず、それゆえ、1本の映画にひとつのストーリーとして在ることが不思議な感じさえする。イ・ビョンホン演じる役に至っては、なくてもじゅうぶん映画が成立しそうな役である。


監督トラン・アン・ユンの以前の作品が好きで見に行ったわけだが、作風は過去とまるで違う。


フランスで生まれ育ったとは言ってもベトナム人の監督で、ベトナムが舞台(フランスで組まれたセットだが)のベトナム人が出てくる映画を撮っていた監督である。だからアジア系の俳優の起用は特に驚かないが(「シクロ」にはトニー・レオンが出ている)、アメリカ人であるジョシュ・ハートネットの出演や、まして猟奇殺人などが扱われるほどの作風の変化のほうにとても驚いた。


一貫した作風の監督もいれば、作品ごとに様々に表現を変える監督もおり、どちらのタイプにも好きな監督がいるし、どちらがいい悪いということではないのだが。


しかし、ことトラン・アン・ユンに関しては、無理に作風を変えることはなかったのでは、と思えた(いや、無理に変えたかどうかは判らないが)。


今年公開された作品で言えば、「彼女を見ればわかること」「美しい人」などの監督ロドリゴ・ガルシアも、サスペンス「パッセンジャーズ」で、突然、自らの作風と違うものを撮った。トラン・アン・ユンといいロドリゴ・ガルシアといい、もともと特徴的で、非常に静謐な作品をつくってきた監督ほど、作風を変えたくなるものなのか。


それでも、トラン・アン・ユンには、かつての、湿度と色彩に満ちた静謐の美を、やはり求める。


それと、猟奇殺人犯の作る、『死体をつかった彫刻』 だが、その造形のあまりのグロテスクさに、誰のデザインなのか、誰の手によるものなのかが非常に気になってしまった。


とりあえずこの映画は、ジョシュと木村拓哉のエピソードを別々の映画にしたほうがいい。






09.7.8