「ザ・ウォーター・ウォー」

特集上映〈未体験ゾーンの映画たち2013〉の1本

Tambien la lluvia

EVEN THE RAIN

2010 スペイン=仏=メキシコ

監督:イシャー・ボライン

脚本:ポール・ラヴァティ

出演:ルイス・トサル

    ガエル・ガルシア・ベルナル

    エンマ・スアレス

 

特集上映中の1本として限られた回数しか上映されないことが、もったいないような秀作だった。

 

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リビアで、歴史上の人物を主人公とした映画を撮影しようとしているスペインの撮影隊が、先住民を中心に募集したエキストラの中に、よくも悪くも目立つ、一筋縄ではいかない人物を見つけ、大きな役に抜擢する。その人物が、欧米企業の水道事業独占による水道料金高騰への抗議活動のリーダーであることがわかり、そのことが現地での撮影に影響を与え、さらに、監督・プロデューサーらとその人物との関わりが深くなっていくにつれ、そのことが映画制作の命運を左右する。

 

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デモや演説を行い、警官隊が出動して騒ぎになるような、激しい抗議活動である。先住民たちの生活を圧迫するほど高騰した水道料金。命に関わる水のために、まさに命がけの抗議活動を続ける先住民、ダニエル。顔に、撮影に影響するほどの怪我を負うに至り、撮影終了までは活動を自粛させようと、監督もプロデューサーも躍起になるが、その過程で描かれる、このふたりが徐々に変わってゆく様がとても興味深い。

 

当初は、抗議活動はあくまでも現地の問題、映画撮影さえ滞りなく終わればいいと、興味を持たないプロデューサー(もともとはダニエルの起用を反対してもいる)。それが、ダニエルと同じく映画に起用した幼い娘との交流、抗議活動自粛の説得などで、ダニエル本人と関わるうち、暴動の中、ダニエル一家を必死で助けようとするまでに考えが変わる。

 

一方、最初はダニエルたちのことをいろいろと配慮していた監督は、抗議活動の影響で撮影が進まないこともあって、一度はスランプに陥りそうになるが、撮影が進むにつれて映画への情熱を取り戻し、“これはなんとしても撮らねばならない映画である” と確信すると、使命感にかられ、ダニエルよりも抗議活動よりも、撮影隊の身の安全よりも、すべてにおいて、撮影完遂を最優先するようになる。

 

“抗議活動は一時のこと、時間がたてば忘れられるが、この映画は永遠に残る” と言って、暴動という非常事態、移動を制限されるような状況になってまでも撮影を敢行しようとする監督の、ある種、常軌を逸したような、まさに とり憑かれているとも言えるほどの映画への執着のありさま。大勢の人間が関わり、大金が動き、様々な思惑の交差する、映画制作というものに、自分がすべきだと思うことに、危険を冒してまで身を投じてゆく人々の姿を描いた様が、強烈な印象となって残る。

 

映画監督を演じるのはガエル・ガルシア・ベルナル。先住民と欧米企業との この “水戦争” は、2000年、ボリビアで実際に起こったことだという。脚本は、ケン・ローチ監督作品の脚本で知られるポール・ラヴァティ。

 

 

 

2013/1/28