「天使の分け前」 職人監督の映画はウィスキーほどの味

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2012 イギリス=フランス=ベルギー=イタリア

監督:ケン・ローチ

脚本:ポール・ラヴァティ

出演:ポール・ブラニガン

    ジョン・ヘンショー

    ガリー・メイトランド

    ウィリアム・ルアン

    ジャスミン・リギンズ

第65回カンヌ国際映画祭 審査員賞 受賞

 

ケン・ローチ監督がこれまで常に描いてきたテーマは、今回も変わらず根底に貫きつつも、そこにコメディ要素を盛り込みながら、100分の作品として簡潔にまとめ上げられている。エンドロールに書かなければいけないことの多い昨今の大作映画には、まず無理なほどに短いエンドロールも、あっさりとしていて粋。まさに職人監督。さすがである。

 

主人公ロビーは、本人の性格のみならず育った環境にも起因するが、何度も暴力事件等を起こし、裁判所から社会奉仕活動300時間を命じられる。指導者であるハリーからウィスキーの魅力を教えられると、そのテイスティングに思わぬ才能を発揮するわけだが、こうして、あらためて映画で見ると、ウィスキーとは、確かに奥深い世界のように思える。劇中に出てくる蒸留所の様子なども非常に興味深い。加えて、“ウィスキーの権威マカリスター氏” を演じている人物は、俳優ではなく、なんと実際に、役柄そのままの、ウィスキーの権威なのだそうだ。

 

テイスティングに才能を発揮、と きて、それをきっかけに更生してその道の仕事に就く…という展開に、簡単にいかないあたりが面白い。妻子とともに真面目に暮らそうと せっかく思い始めていたところなのに いいのか、と言いたくなるところだが、それを言うほうが無粋かもしれない、なんせ今回のケン・ローチ監督は、「エリックを探して」に続いてのコメディだ。痛快な成り行きをこそ、楽しめばいいのだろう。キルトも また よし。

 

ウィスキーは、熟成されている間に、樽の中から、年間2%ほど蒸発してゆく。それを、“天使の分け前” と呼ぶそうである。そして、映画のラストでは、そこへ別の意味も付加されるのである。

 

 

2013/4/16