「チャーリーとチョコレート工場」 毒のある華々しさ。
CHARLIE AND THE CHOCOLATE FACTORY
2005アメリカ
監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ
フレディ・ハイモア
ティム・バートンとジョニー・デップが作り上げたウィリー・ウォンカは、毒々しく奇妙で、とても魅力的だ。
初日の10日、レイトショーで見た「チャーリーとチョコレート工場」。物語の始まりは、規則正しく動くチョコレート製造機。「ビッグ・フィッシュ」から1年でティム・バートンの新作が見られる、と思いつつ、冬の景色と傾いた小さな家に吸い込まれる。
最初のうちはなかなか姿を見せないウィリー・ウォンカ。そしていざウォンカが姿を現すと、チョコレート工場見学権を引き当てた子供らやその両親だけでもじゅうぶんに濃いキャラクターなのにも関わらず、さらにそれ以上の奇妙キテレツぶりを発揮する。
登場は、かつてディズニーに勤めていたティム・バートンが何か思うところあって撮ったのでは、と噂される、機械じかけの古ぼけた人形が火だるま(!)になるシーン。
ウォンカを大絶賛する歌をくるくると歌い踊りながら電気がショートして出火、燃え落ちて顔がドロドロと溶ける(とは言っても、この人形のための治療室があったりするのだが)。その光景にみんなが眉をひそめていると、いつのまにか、ウィリー・ウォンカが隣に立っている。
そこからはもう、とんでもない目に遭う子供らをあざ笑う変人社長の独壇場だ。妖しい極彩色のチョコレート工場内部は、楽しげというよりまがまがしくインチキくさくて、小憎たらしい子供らには様々な驚きが待ちうける(それぞれのエピソードの酷さに妙に差があるように見えるのは気のせいか?)。
何かというと、謎の種族ウンパ・ルンパが登場し、チームワーク抜群の歌と踊りが繰り広げられ(しかし演じているのは1人の俳優)、工場内のあらゆる場面で重要な役割を担う姿がこれまた笑わせる。
歌と音楽はもちろん、かつて「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」でも大活躍だったダニー・エルフマン。
そして、CGでなく、全部本物のリスが大挙出演するシーンがたまらない。演技を教えこまれたリスたちが工場で仕事している。昔、おじいさんがリスに首輪と長いリードをつけて、公園の木に登らせて遊ばせている姿を見たことを思い出した。
これでもかと言わんばかりに観客の目を楽しませてくれるこの作品で、もっとも強烈なのはやはりジョニー・デップの演技とキャラクターだ。真っ白い顔にシルクハット、王子様のような服装にステッキを持ち、人嫌いで挙動不審、高くうわずった声で笑う。あることがフラッシュバックするとめまいを起こしそうになるし、つっこまれるとムッとするものの、なかなか言い返せなかったりする。とんでもない展開にみんなが目を丸くして呆気にとられている横では、してやったりとほくそ笑んで小躍り。
工場も経営者も怪しければ、子供らも1人を除いて思いっきり憎たらしく、児童文学が原作と言っても実にブラックだ。しかしストーリーそのものはあくまでも児童文学の範疇を逸脱しない、おとぎ話としておさまるところにおさまるストーリーだ。それだけだと大人にはちょっと物足りないところを、ティム・バートンによって注ぎ込まれた毒によって見せる。
観客の内面に静かに入り込み語りかけるような作品というなら前作「ビッグ・フィッシュ」だろう。しかしこの「チャーリーとチョコレート工場」は、くらくらするような色彩で濃厚な甘さと毒をかもしだす。この毒こそが、この映画の、チョコレートのように濃密な味を引きだしていると思える。
そしてもっとも美しいシーンは、ウィリー・ウォンカのハグのシーンだ。ぎこちなくてかわいらしい、もっとも愛すべきシーンだった。
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