「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」 音楽を見る映画。

WALK THE LINE
2005アメリカ
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ホアキン・フェニックス
    リース・ウィザースプーン



映画の中の演奏シーンにこれほど惹きつけられたのも久しぶりだった。


丁寧でありつつも無駄のない展開と演出、60年代・70年代〜と時代を表す衣装や背景の自然さ、大げさな大団円にならないラストシーンなど、様々な点で秀逸な作品だが、なんといっても素晴しかったのは主役の2人が歌うシーンだ。実在したカントリー歌手、ジョニー・キャッシュとジューン・カーターを演じた2人だ。


ジョニーを演じるホアキン・フェニックスの低音の声と、ジューンを演じるリース・ウィザースプーンのハリのある声、このふたつが重なる時は身震いするほど美しい。


酒とクスリでフラフラになりながらも、ギターを持ってステージに立つと、途端に輝かんばかりの存在感を発揮しはじめるジョニー・キャッシュを体現したホアキンと、けんか中だろうと何だろうとひとたび客の前に出れば笑顔で歌いきるプロ根性と、いかにもその時代の女性歌手らしい華やかさを表したリース。


歌うシーンが美しいのは、2人の演技、そのシーンへ辿り着くまでの様々なシーンでの的確な演技と演出の積み重ねがあるからこそのものだ。そしてそれらのシーンの中でも、刑務所でのライブシーンは白眉と言えるだろう。


冒頭、そのライブシーンは、作品を見る観客の体にまで重低音を響かせ、舞台に立つ直前のジョニー・キャッシュの姿を見せる。一転して、子供の頃のジョニーからストーリーは始まり、終盤で再びこの刑務所でのシーンに辿り着く。


いくつもの美しい歌声を聴かせたのちに辿り着くこのシーンでホアキン=ジョニーは、看守に痛快な皮肉を言い、囚人たちの割れんばかりの歓声を浴びてその声を響かせる。まさに胸のすくような素晴しいシーンだった。


ステージのシーンで、主役2人の姿ばかりでなく、頭上から降りそそぐライトの光芒や、薄暗くも熱気を帯びた客席など、ステージ上の2人の視点からの映像がはさみこまれるのも、緊張感や独特の熱気の高まりを伝える優れた演出だった。 






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