「ジェリーフィッシュ」 いつもいつも悲しくて、たまに少しほっとする。

MEDUZOT
2007 イスラエル=フランス
監督:エドガー・ケレット
監督・脚本:シーラ・ゲフェン
出演:サラ・アドラー
    二コル・ライドマン



イスラエル・フランスの合作で、2007年のカンヌ映画祭でカメラドールを受賞している「ジェリーフィッシュ」。


劇中では、ほとんどへブライ語が話される。出演は、ゴダール「アワーミュージック」のサラ・アドラーほか。


幾人かの登場人物を追う映画。結婚式場のウェイトレスの女の子。子供の頃離婚した母は募金集めなどのチャリティ活動で世間に名を知られ、父は別の人との再婚を考えている。


その結婚式場のカメラマンの女性。


新婚旅行を楽しみにしていたのに新婦が骨折、あらゆる意味で行き届かないホテルに泊まるしかなかった夫婦。


そのホテルで出会った謎の女性。


子供を国に置いて、へブライ語もほとんど話せないままイスラエルへ働きにきているフィリピン人女性。


そのフィリピン人女性がヘルパーとなる気難しい老婦人と、娘である舞台女優。


そして、ウェイトレスの女の子の目の前にふいに現れる、赤と白の浮き輪を腰につけ、“海からやってきた”ふしぎな少女。


ウェイトレスは、そのふしぎな少女を介して長い間会っていなかった父と会い、カメラマンと友達になり、昔のことを思い出す。


ウェイトレスの母がチャリティを呼びかけるポスターの、両手で屋根の形をつくって写っている写真の下で、ウェイトレスが雨に濡れているシーンは印象的だ。『何も持たぬ人たちに屋根を』とチャリティ活動に勤しんでも、じつの娘の屋根にはなってやれなかった母。この二人の関係を如実に表す。


どの人物にも、必ず何か、苦々しい出来事がある。悲しい現実に直面する。ホテルの謎の女性のようにその悲しみを持ったまま逝く人もいれば、ウェイトレスのように、失ってきた分、新しいものを得、忘れていたことを思い出した人も。


ふしぎな少女はいつか見た海の記憶を呼び覚まし、自分と少女が重なると気づいた時、また、やってきた海へと消えてゆく。買ってもらえなかったアイスクリーム、あの時のアイス売りのおじさんにようやく再会できて、ひとつのことが終わり、ひとつ新しくなる。悲しみがなくなる訳ではなくても、少し晴れやかになれるラストシーン。


劇中の、二人の女性の心持をあらわし、ひいてはこの物語そのものに流れる心情をあらわすような詩が、とても悲しく、美しい。






08.6.18