「トゥモロー・ワールド」
CHILDREN OF MEN
2006 アメリカ=イギリス
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:クライブ・オーウェン
ジュリアン・ムーア
マイケル・ケイン
06 11 29
人類に子供が生まれなくなった未来を舞台にしたP・D・ジェイムズのSF小説『人類の子供たち』が原作の「トゥモロー・ワールド」。主人公セオにクライブ・オーウェン、セオの元妻にジュリアン・ムーア、セオの友人ジャスパーにマイケル・ケインと、映像の迫力のみならず出演者も豪華だ(J・ムーアとM・ケインの出番が思った以上に少ないのが残念だが)。
2027年。世界各国で内戦が起こり無政府状態に陥るが、イギリスだけはかろうじて政府が機能している、という状況が描かれる。
政府の仕事をするセオは、自らの政治的主張のため反政府組織のリーダーとなった元妻から、ある少女を助けるための協力を請われ、それが命がけの逃走へと発展する。
この作品は、戦闘状態の瓦礫の街の映像がとにかく凄まじい。SFというより、戦争映画の様相を呈している。それもまるで、ニュース映像を見た時のようで、“いつ弾丸が飛んでくるかわからない”恐怖感を見せつけられているかのようだ。
いかにもSF的題材の “人類に子供が生まれない” という設定ではあるものの、そうなった理由を特に追求するでもない。それよりも、少女と、人類に18年ぶりにようやく生まれた子供とを助けるという、ただひとつのこと、ただそのことのためだけに多くの犠牲を払い、命をかける主人公が印象的だ。
劇中、頻繁に動物が映し出されるが、混乱で家畜が逃げだした様子を描いているというよりは、もっと、あえて意識的に描いている風だ(セオの足にしがみつく子猫など)。無慈悲な殺し合いとは対照的な動物の生命力を、意識して映しこもうとしているように見える。
セオが、世界の芸術作品を救おうとしている政府関係者である従兄弟と話すシーン。従兄弟は、ルーヴル美術館のダヴィデ像を修復して飾りピカソの『ゲルニカ』を壁に掛け、“ミケランジェロの『ピエタ』も破壊された。ベラスケスは2枚救ったがダリは救えなかった。プラド美術館はもうだめだろう” というような話をし、セオは、もはや芸術を救うことの意味すら見出せない。それは想像するだけでぞっとする世界だ。
元妻の仲間、アジアかぶれのミリアムが口にしていた言葉 “シャンティ シャンティ シャンティ” が、“地に平和あれ” という意味だということが最後にわかる。映画の中くらいでしか実現できないことだ。
製作費120億円という本作。主人公が乗った車が森で襲撃されるシーンの移動撮影、後半、戦場での8分間の長回しなど、映像面では多くのSF映画とは違った方向でリアルさを追求する。
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