「潜水服は蝶の夢を見る」

LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON
THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY
2007 フランス=アメリカ
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:マチュー・アマルリック
    エマニュエル・セニエ
    マリー・ジョゼ・クローズ
    マックス・フォン・シドー



2007年のカンヌ映画祭、2008年のゴールデン・グローブ賞で監督賞を受賞し、2008年のアカデミー賞でも外国語映画賞候補だった「潜水服は蝶の夢を見る」。


脳梗塞で倒れ、体は自由を奪われたのに本人の意識や記憶ははっきりしているという閉じ込め症候群となりながらも、唯一動かせる左まぶたで"Yes,No"の瞬きを20万回繰り返し、文字を選んでいくという方法で自伝を綴った元雑誌編集長、ジャン=ドミニク・ボビーの物語。


“潜水服”は、本来自らの意のままに動かせるはずの自分の体の中にまさに“閉じ込められた”状態を表し、そして様々な記憶や願望でできた蝶の夢を見る。


編集長時代は家庭を顧みないところもあったジャン=ドミニクも、病に倒れてからは、元気だった頃の記憶とともに、小さな息子や娘たちのこともその脳裡に描く。


子供らや妻との、海辺や郊外での記憶、あるいは願望は、白日夢のような浮遊感と感触で描かれ、この時、ただこの一瞬だけは、ジャン=ドミニクは自由を取り戻したかのように見える。


動かせないほうの右まぶたは、眼球が乾くといけないからと、治療の一環として縫いつけられてしまうが、動かせない体で、必死でやめてくれと叫ぼうとするのに声も出せず、いやだと伝えることすらできないシーンには胸が痛む。“周りの世界を見るための目が閉じられる”。どれほどの恐怖や絶望を味わっただろうか。マックス・フォン・シドー演じる、ジャン=ドミニクの父親が、自分も決して体調がいいわけではないのに、息子の病を思い、電話するシーンもとても痛切だった。


記憶違いでなければ、ラスト近く、一時帰宅したジャン=ドミニクの、自分で車に乗って家に帰るという空想の中でかかっていたのは、「大人は判ってくれない」の劇中の曲ではなかったか。そして、やがて その すぐあと、「大人は判ってくれない」の主人公と同じように、パリの街をゆくシーンでありながらも、それが救急車でパリに戻るシーンであるとは、なんて悲しいのだろう。ジャン=ドミニクは、自伝発売の数日前に亡くなったという。


ジャン=ドミニクを演じたマチュー・アマルリックも、とても印象深い演技だった。






08.3.19