「スペル」 “(笑える)ホラーのサム・ライミ” が帰ってきた。

DRAG ME TO HELL
2009 アメリカ
監督:サム・ライミ
出演:アリソン・ローマン
    ジャスティン・ロング



ハロウィンの時期はホラー映画の公開が重なることも多い。この秋も何本か公開されたが、中でも秘かに楽しみだったのが、サム・ライミ監督作「スペル」だ。


このサム・ライミホラーの見所は、なんといっても、とりあえずやりすぎなところである。


主人公に呪いをかける老婆の描写も、駐車場での格闘も、墓場での文字通りの死闘も、何かというとドロドロ(物理的に)なのも、とにかくやりすぎである。


やりすぎゆえに、思いつめた表情の主人公との落差がありすぎて、それが妙に笑いを誘う瞬間がある。


主人公を演じるのはアリソン・ローマン。「マッチスティック・メン」での快活な姿や「ビッグ・フィッシュ」での可憐な姿を思い浮かべると、意外なようでもあり、その意外性がうまい人選だ、という気にもなり。


アリソン・ローマンの、屈託なく笑う顔と思いつめた表情の時との落差が、結果として、本来はとばっちりによる被害者とも言えるこの主人公を、いわゆる“ふつうの人”というのとはちょっと違う、どこか極端な面を持った人物のように見せていると思える。そのことが、この映画の 『いい意味での悪趣味さ』 にとっては、非常に効果的であるような気がする。(たとえば、ドロドロを頭からかぶって叫び声をあげるわりにはそのあと案外平気そうなとことかにもつっこみたいが、しかしそのつっこみたくなるような描写が、この映画には合っている。)


ちなみに、チラッと聞きかじっただけの話なので、もしかしたら正確さを欠いた言い方になっているかもしれないが。サム・ライミは最初、自らはこの映画の製作を務めるのみのつもりで、監督はほかの人物に依頼したという。しかしこの内容のせいか、どんな監督に依頼しても断られ、結局自らメガホンをとった、というのである。


しかし、どんな監督にも 『これはちょっと…』 と思わせた(おそらく)という逸話は、この映画にとっては、もはや付加価値であるとさえ言える。


かつてのサム・ライミホラー、「死霊のはらわた」を思い起こさせる(実を言うと実際に見たのはようやく2年ほど前なのだが)。やはり、“スパイダーマンのライミ” ではなく、“ホラーのライミ” である。


この映画は、ホラーファンに愛されるだろう(そうに違いない、きっと)。そして、“ヒットメーカー” などと呼ばれるようになってもなお、こんな 『愛すべきB級ホラー』 を撮る監督、サム・ライミに惚れ直す。






09.11.11