「八月の鯨」 美しい生活
The Whales of August
1987 アメリカ
監督:リンゼイ・アンダースン
出演:リリアン・ギッシュ
アン・サザーン
ハリー・ケリーJr.
娘時代、八月の海に見た鯨を、いつかまた見られるかもしれないと待っている、リビーとセーラの老姉妹。海辺の、古い家で暮らしている。
少ない登場人物の、それぞれの人物像が、台詞、服装、そして名優らの演技によって、的確に表現され、行動や会話、その すべての中で際立っている。
辛口な物言いで、自らの厳しい面を人に見せようとする姉、リビー。包容力があり、おおらかな妹、セーラ。近づいてきているのであろう死を、意識する姉と、まだ続く人生を考える妹、という点でも、対照的な姉妹だ。また、ロシアの亡命貴族である紳士も、古くからふたりを知る、気のいい大工も、賑やかな女友達も、皆、会話のひとつひとつが味わい深い。
目の見えないリビーが、自らの髪が いったいどのくらい白くなったかと、セーラに尋ねる。死んだお母さんと同じくらい白くなっているかしら、と。二度、三度と、リビーがそれを確認するたび、常に毅然としているリビーの心のうちが、垣間見えるかのように、その言葉にもっとも表れているかのように感じる。尋ねているのは、髪のこと。しかしそこには、言葉にしていないだけ、様々な思いが去来する。
海辺の暮らしの情景、描かれる生活の細やかな美しさ。ラスト、手をとって、ふたり歩くその足元。ひとつひとつのシーンが、静かな余韻をもたらす。
2013/3/2