「ゆれる」
2006日本
監督:西川美和
出演:オダギリジョー
香川照之
いつまでも埋まらない溝がある。兄弟は業を背負う。
離れていた兄弟の人生を交わらせる、幼なじみの転落死。その転落の瞬間をどんな状況で思いだすか、どんな感情を抱えている時に思いだすか。
思いだすたびに記憶がゆらぐ様が、映像で確かに描かれる。
橋の上の兄を見たとき。
兄が突き落としたようにも、どうすることもできなかった事故のようにも、あるいは兄は助けようと手を差し伸べたようにも思える。
そんな記憶のゆれを、容赦なく描いてみせる。たったひとつの言葉によってすら、ゆれる記憶を。
気持がゆらぐたびに記憶がゆらぐ。吊り橋のゆれと重なるように。映画は淡々とその様子を物語る。
多くのものは、思っている以上に不確かだ。血の繋がりも、感情も。気持のゆらぎが記憶を書き換えることすらある。記憶にだまされることもある。
この映画は、それらをいやおうなしに思いださせる。思いだしたくないことを語る。目の前に突きつけられるかのようだ。
“最後まで僕が奪い、兄が奪われた”という弟の言葉が、2人の関係のすべてをものがたる。
ゆれる吊り橋のように危うかった2人の人間の関わり。その表層を剥ぎ取って現れた生々しい感情の渦を、淡い色をともなって思いだされるこの映画は容赦なく映し出し、どこまでも静かに語る。
06.7.26