「博士と彼女のセオリー」

The Theory of Everything
2014 イギリス
原作:『Travelling to Infinity: My Life with Stephen』 ジェーン・ホーキング
監督:ジェームズ・マーシュ
脚本:アンソニー・マッカーテン

 

 

イギリスの理論物理学者スティーブン・ホーキング博士と、その妻ジェーン・ホーキングを描き、今年2月の第87回アカデミー賞において主演男優賞を受賞した本作。

 

ホーキング博士を描くとなると、当然、その研究の様子なども描かれるのであろうと思っていた。そのため、原題 “The Theory of Everything” が「博士と彼女のセオリー」という邦題となったことが、これはまたずいぶんと恋愛映画のような(ポスターデザインやキャッチコピーも含め)…と、多少の不満(というと言い過ぎかもしれないが)も感じていたのであるが。

蓋を開けてみれば、邦題の纏うこの恋愛映画的イメージこそが、むしろ内容をよく表していたという意外性。つまり、“学者としてのホーキング博士とその研究” 以上に、私生活、とりわけ妻との馴れ初めから結婚生活までを描くことのほうに、重点が置かれていたのだった。妻ジェーン・ホーキングの著書を原作としているということを鑑賞後に知って、そのような描き方を選択したことに合点がいった。

 

難病ALSを発症したのは学生時代であったホーキング博士。演じるエディ・レッドメインの、その表情の変化が見事だった。実在の人物が映画で描かれることは非常に多いが、世界中の人々にその存在も容貌も広く知れ渡っている、しかも歴史上の過去の偉人ではなく存命中の、これほどまでに著名な人物を演じることは、さぞかしチャレンジングなことであったろうと思う。ちなみに、声を出せなくなってからのシーンで使われていた、ホーキング博士の意思伝達のための電子音声は、博士本人が提供した、実際に博士が使っている音声であるとのこと。

 

映像の美しさも印象的な本作だが、あの光の美しさは、ホーキング博士の研究にとって重要な光というものを象徴させたいとの意図もあったのだとか(監督インタビューによる)。そして、撮影後の映像に手を加えることもなく、撮影時に実際にカメラの前にあったものだけをおさめているという。

本作のジェームズ・マーシュ監督の過去の作品としては、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しているということもあって、2008年の「マン・オン・ワイヤー」が代表作とされている場合がやはり多く、(「マン・オン・ワイヤー」は見ていないものの)てっきりドキュメンタリー出身の監督かと思っていたら、特にそういうわけではなく、他の監督作を確認すると、「キング 罪の王」(2005年/未見)や、「シャドー・ダンサー」(2012年/鑑賞)などがあった。

 

ホーキング博士を描いている以上は、当然、宇宙についての台詞も出てくるわけだが、ブラックホールについて触れられるたびに、鑑賞以来すっかり惚れ込んでいるSF「インターステラー」(2014年)のことを思い出さずにはいられなかった(星間移動を扱ったストーリーである「インターステラー」のほうが、本作以上にブラックホールなどについて言及されている)。

劇中、ホーキング博士の友人として登場する理論物理学者キップ・ソーンは、その「インターステラー」において、科学コンサルタントと製作総指揮をつとめている。

 

 

2015/03/25