「赤と黒〈デジタルリマスター版〉」 ジェラール・フィリップをもう一度。
〈ジェラール・フィリップ没後50年特別企画〉
LE ROUGE ET LE NOIR
1954/2009 フランス
182分
原作:スタンダール
監督:クロード・オータン=ララ
出演:ジェラール・フィリップ
ダニエル・ダリュー
アントネラ・ルアルディ
1820年代、フランスの小都市・ヴェリエールが舞台である「赤と黒」。得意のラテン語を生かして家庭教師となった、職人の息子であるジュリヤン・ソレル。シェラン神父の推薦により、町長のレナール家へ、子供の家庭教師として赴く。レナール夫人と深い関係になるが、事実の発覚を恐れ、当時、出世への道のひとつだった神学校へゆくも…
ジェラール・フィリップの映画を初めて見たのは、思えば何年前だったろうか。特集上映されていた映画館の前を通った時に、ふと興味をひかれ、見たのが最初だった。それまでジェラールのことは何も知らなかった。正真正銘、映画館が出会いの場だったのだ。それ以後も、何度も特集上映されているが、その度に、やはりもう一度ジェラールを見たい、と思う。
赤は軍服、黒は僧衣。
この「赤と黒」でジェラールが演じたジュリヤン・ソレルは野心家だ。軍服を着る人生を送るか、僧衣を着る人生を送るか。考えるのは常に、いかにして権力を持ち得るか、である。そしてまた、利用するつもりで女性に近づき、自らの野心の踏み台にするはずが、いつのまにか愛情に溺れる。
一見、野心家でありながらも、どうしても、完全なる野心の権化にはなれない、愛情を求めずにはいられない人物。なおかつ、その姿をひと目見た女性が、悉く心奪われるほどに美しい。まさにこれは、ジェラールにぴったりの役だと言えるだろう。ギラギラした野心だけを表情に浮かべはせず、しかし内に秘めたるものを感じさせ、どこかしら線の細さも漂わせるジェラールに。ジェラールは、とても美しい目をしている。
この映画では、ジュリヤン・ソレルの独白が常に入るのだが、なんせ心の声なだけに、あからさまな損得勘定や、なんら外面を繕わない考えばかりで、とにかくどこまでも俗っぽい。その俗っぽさが、人間くさくてとてもいい。
この作品は、制作当時もハマリ役との評価が高かったといい、その反映か、よく知られた文豪の原作にも関わらず、その後再映画化されたことがないという。
1959年に、36歳で世を去ったジェラール・フィリップ。ヌーヴェル・ヴァーグの監督が台頭してきた頃にもし生き続けていたら、どんな映画に出たのだろうと、ふと考えることがある。
10.1.23