「ある子供」

L'ENFANT
2005ベルギー=フランス
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:ジェレミー・レニエ デボラ・フランソワ



ダルデンヌ兄弟の作品が素晴しいのは、まるで映画の原点を見ているかのような気持ちにさせられるからだ。


特殊効果もなく、音楽もなく、ただ登場人物を見据えるカメラはそのまま観客の視点になる。目を離せなくなるほどの緊迫感が画面に漲っている。主人公を、その置かれた状況を、つぶさに、くまなく見続けようとする視点。


主人公の少年少女がつかの間、じゃれあって笑うシーンでは、声や走ってゆく車の音とともに、晴れた陽射しや色の褪せたTシャツの質感までもが伝わってきそうだ。


湯水のようにお金を使った映画の存在意義が一瞬わからなくなる。「イゴールの約束」でも「息子のまなざし」でもそうだった。どうにもならない人生を見つめる。音楽のないぶん衣擦れまでが聞こえて、それが映画と観客をより密接にし、観客の内側に入り込む。


“カンヌで賞をとったから” 素晴しい、という訳ではない。ある意味においては賞すら かすむだろう。ダルデンヌ兄弟の作品が素晴しいのは、賞ではない、作品そのものだ。


カンヌでの受賞をよかったと思うのは、そのぶん日本でも確実に公開されるから。受賞如何にかかわらず、ダルデンヌ兄弟の作品の素晴しさには変わりない。







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