「ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR」「大統領のカウントダウン」 急にどうしたんだろうロシア映画。

NOCHNOI DOZOR
2004ロシア
監督:ティムール・ベクマンベトフ 
出演:コンスタンチン・ハベンスキー


COUNT DOWN
2004ロシア
監督:エヴゲニー・ラヴレンティエフ



この4月に公開された2本のロシア映画。


3部作での制作がすでに決まっているという「ナイト・ウォッチ」は、ベストセラー小説が原作で、本国ロシアでヒットしたという作品だ。


“久しぶりに興奮する映画だ”とタランティーノが評した、などという話も聞くが、それをおいといても、ロシア映画ではまず見たことのない種類のファンタジー映画で、ロシア語圏以外での公開を見越してか、すでについている英語字幕がデザイン化されて映像に組み込まれていたりと、その映像センスも面白い。


ただファンタジー/アクションといえば、質的にはやはりハリウッドがいちばんだ、と思っている人にはとっつきにくいタイプの映画かもしれない。


人間の姿から異形のものへと変化したり、ビルの屋上に突如異世界が出現したりという、ロシア映画には珍しい、CGを多用したダークな映像は、ハリー・ポッターナルニアのような“無菌ファンタジー”とはひと味ちがい、この作品全編を禍々しさで覆う。


現代のロシアを舞台に、表裏一体で異世界が存在するというストーリーの、2つ3つとエピソードが交錯し、違うエピソード同士の関連が徐々にわかってくるところもなかなか。


言語の違いとは、そのまま文化の違い。英語圏のファンタジーやアクションのようにへんに“こぎれい”じゃないところが、独特の妖しい雰囲気をつくりだす元となっている。それがかえっていい。



もう1本の「大統領のカウントダウン」は、ロシア軍の将校の実体験に加え、実際に起きた事件もストーリーに取り入れて作られたという作品。


公演中のサーカスでテログループが観客を人質にし、政府に要求をつきつけるシーンがまさにそうだろう。2004年9月、旧ソ連北オセチア共和国での、武装集団による学校占拠事件。爆弾での脅しや、人質への犯人グループの対応などの細かいシーンは、この事件当時報道されていたことと重なる。


現実の事件をアクション映画に取り入れるのはハリウッドの専売特許という感じなだけに、この作品もロシア映画としては珍しいタイプだ。



ロシア映画というと、公開数がアメリカ映画等に比べて圧倒的に少ない分、見る数はどうしても限られるが、優れた作品も多い。

       
過去や記憶、心残りがいかに人生に影を落とすものかということがSFというかたちで描かれている70年代の作品「惑星ソラリス」は、もっとも印象深く、詩情、美しさともに際立っている。


最近の作品ならば、カフカの小説の映画化で、舞台演劇風の特異な作風の「変身」、ソ連崩壊後のロシアになぞらえた寓意的な物語としても見てとれる「父、帰る」などが記憶に新しい。


ほかにも、ロシアの至宝・エルミタージュ美術館が90分ワンカットで撮影された「エルミタージュ幻想」、もうすぐ公開されるというイッセー尾形主演作「太陽」、さらにロシアに限らず他国でも文豪トルストイらの小説が映画化されていることなどを思うと、文芸作のイメージがかなり強い。
        

それだけに、4月公開の2本は変り種。「ナイト・ウォッチ」のダークな妖しさに惹かれる者としては、これは続編「デイ・ウォッチ」も楽しみだ(主人公が地下鉄に乗るシーンのサングラス姿を見ると、髪型のせいもあって、U2のボノが思い出されて仕方がなかった)。






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