「白い馬」「赤い風船」

ともに〈デジタルリマスター版〉

CRIN BLANC
1953 フランス
監督・脚本:アルベール・ラモリス
出演:アラン・エムリー
    ローラン・ロッシュ


LE BALLON ROUGE
1956 フランス
監督・脚本:アルベール・ラモリス
出演:パスカル・ラモリス
    サビーヌ・ラモリス



それぞれ、1953年と1956年のカンヌ国際映画祭にて、グランプリとパルムドールを受賞しながらも、日本での上映が限られた機会だったこともあって、“幻の映画” と言われていたという作品。その短編2作が、このたび2本立てで公開された。


映像詩とも呼べるこの2本の映画には、台詞はとても少ない。その分、勇壮だったり軽快だったり、流れる音楽が物語る。少し古い映画を見た時特有の、ある種劇的な音楽にその映画の時代を感じるのが、とても好きだ。


「白い馬」では、南仏カマルグの湿地帯で漁をして暮らす少年フォルコが、荒地に棲む野生馬のリーダーである白馬を、捕らえて飼い馴らそうとする男たちから守ろうとする。


一目見て白馬に魅せられ、いっしょにいたいと願う少年。簡単には人間の思い通りにならない気高い白馬は、『少年と白い馬は、人間と馬がともに暮らせる世界へと旅立った』という言葉とともに、最後には少年を乗せて海へと消えてゆく。その姿は、ひとつの至上の幸せを見つけたようにも見え、またその言葉から即座に死を連想し、彼らがもう二度と戻ってこないという描き方であると考えると、痛切で胸痛むラストシーンと見てとれる。


この作品のモノクロの映像は、夢に見た光景を、覚醒してから再び映画としてスクリーンに映しだしたかのような、不思議な美しさだ。ちょうど夢を見ている時のように、温度も触感も伴わないのに印象だけは鮮烈に残る、そんな感覚を思い出す。



「赤い風船」では、街灯に紐がからまった真っ赤な風船を少年がほどいてやると、意思を持ったかのような風船が、どこまでもどこまでも少年についてくる。


雨上がりの濡れた路面すらも美しい、淡い色調の映像。パリの街を、なんだか足元もまだ覚束ない感じの幼い少年パスカルがとことこと歩き、鮮やかな赤い風船がふわふわついてゆくその姿の、なんと愛らしいことか。日常の中に、ほんの少し非日常が現れる。


いつもの街。何の変哲もない風船。ただそれが“意思を持って ついてくる”というだけで、派手な特殊効果も何もなくても、映画はファンタジーになる。凝った映像の映画も確かに素晴しい。でも本来、映画を見た時の感動というのは、特別なことをしなくても、こういうほんの少しの工夫によっても もたらされるものではないか、とも思える。


悲しい結末かと思われたその時起こる、美しい奇蹟は、観る者を揺さぶる素晴しいラストシーンだ。まるで陽の光をそのまま形にしたかのような色とりどりの風船は、この作品でなければ感じられない美しさを持っている。そしてまた、少年を空へと見送ることが、少年がもう二度と戻らないことを示唆し、とても寂しいと思える。






08.8.1