「北辰斜にさすところ」

2007 日本
監督:神山征二郎
出演:三國連太郎
    緒形直人
    林 隆三 ほか



昭和11年、旧制第七高等学校造士館(現 鹿児島大学)に入学した主人公、上田勝弥。尊敬する先輩・草野正吾とともに忘れられない学生生活を過ごすが、草野や、苦楽をともにした野球部の仲間とも、そして同じく野球部だった弟とも、戦争によって引き離される。


老年となった勝弥の回想の形で青春時代が語られ、一方、五高(現 熊本大学)との100年記念の野球の試合が軸となる後半には、勝弥が語りたがらなかった、草野との悲しい別れも描かれる。


七高・五高のOBたちが、記念試合の中で、現在の若い後輩たちに、かつての友の姿を重ね合わせるシーンは、悲しみをも越えた高揚感をあらわす。


勝弥を演じるのは三國連太郎。その語り口や、孫に話しかける様、家族との会話のシーンなど、円熟でありながら決して大仰でなく、勝弥の品のよさや、息子夫婦とともに暮らす“家”の雰囲気などが、ちょっとした言葉の端々から伝わる。さすがとしか言いようがない。


戦争にまつわる話をするシーンには、たとえ当時を知らない世代であっても、やはり強く胸うたれる。平常心で聞き流せないのだ。深く揺さぶられるものがある。


昨年末だったか、この映画の宣伝のため大阪へ来た三國連太郎のインタビューが、関西ローカル番組で3日間に渡って放送された。1日目をちょうどうまい具合に見られたので、これは貴重だ、と、2日目・3日目は時間帯のこともあり録画して、興味深く見た。


関西ではよく知られるフリーアナウンサー角淳一がインタビュアーであったが、角さんが小柄なかたなため、三國さんは より大柄に見えた。大阪の下町を歩く姿に不思議な感じがする(いるはずがない、と思うので)。角さんは“親子ほど年の離れた”と表現なさっていたが、たしかに角さんは60代、三國さんは80代だから親子でもおかしくない年齢差だが、言われるまでそんなふうに感じなかった。とても落ち着いたインタビューだ。


三國さんは、何を訊かれても、聞いてる側が驚くような話でも、さらっとお答えになる。若い頃の話や戦時中の話。ひょうひょうとした語り口とゆっくりとした物腰に年輪が感じられる。2人でお好み焼きを食べながらの語りが、味わい深かった。


ちなみに、映画で共演した緒形直人の演技を、“お父さんよりいい” と褒めていらっしゃった。あのお父さんのことをこんな風に言えるのも三國さんだからこそ、か。



映画の中、“9回までで延長なし”と決められていた100年記念試合は、1-1で引き分け。ラスト、たった一人、かつての様々な出来事や人々を思いながらグラウンドを見つめる勝弥の姿が、言いようのない余韻を残す。






08.8.13