〈それぞれのシネマ〉 映画のための映画。

CHACUN SON CINEMA
2007 フランス
監督:各国の32組の監督
カンヌ国際映画祭60回記念製作映画



2007年。カンヌ国際映画祭が60回目を迎えた年だ。カンヌ映画祭の ― ウォルター・サレス作品に出てくる表現で言うと“親玉” ― ジル・ジャコブから、カンヌ映画祭にゆかりの深い世界中の監督に、『あなたにとって映画館とは何か、3分の短編映画を自由に作ってください』 と依頼されて、この作品はできあがる。


60回記念の2007年、映画祭で上映され、その時のラインナップにはなかったデヴィッド・リンチ監督の1編も加えて、このほど〈それぞれのシネマ〉として公開された。


映画ファン瞠目の名監督がそろったオムニバス映画なら、近年の作品では「10ミニッツ・オールダー」がすぐに思い浮かぶが、15人の監督が1話10分で作っている「10ミニッツ・オールダー」に比べ、1話が3分と短い本作は、その分参加する監督が32組。そして「10ミニッツ・オールダー」同様、名監督がそろいもそろって、名前を見るだけで壮観だ(ちなみに、当然の如く入っているだろうと勝手に思っていたジャン=リュック・ゴダール作品は〈それぞれのシネマ〉にはない。なぜカンヌの60回記念作に入っていないのか。まさか5月革命の際に映画祭を中止に追いやった過去があるから?…そんなわけないか)。


32組の監督の、映画館、映画というものに対する考え方やイメージ、記憶を垣間覗き見るような面白さがある。何十年も前の映画館や子供の頃の記憶(実体験を元にしているのかどうかはまた別の話として)、映画館の薄暗がりの中でのファンタジー…(館内で妙に盛り上がるカップルがたびたび描かれるのも特徴か。日本の映画館だとまずないと思うのだが)。


美しい作品、懐かしさを呼び起こすものもあれば、共感を覚えるもの、ニヤリと笑えるもの ― 映画ファンなら解る、という感覚で笑い、思わぬ展開に笑い ― 、相変わらず我が道をゆく、あっと驚くラース・フォン・トリアー作品、などなど… 様々なイメージがあふれるが、共通するのは、映画というものへの思慕と愛情。


ちなみに、いちばん近い感覚だと勝手に思ったのは、ナンニ・モレッティ作品 『映画ファンの日記』(監督自身が語る様々な映画が、いかにもプロが選びそうな作品だけでなく、有名娯楽系作品も入っていて親しみを覚える)。どの作品に共感するか、どの作品が好きかも見る人によって様々だろうから、それもまた興味深い。


レイトショーで見終わって、外へ出たら、この日はいい月だった。右肩が影になった月。映画館から外に出た時、明るい中で現実に引き戻されるより、映画館の暗がりの中のままでいたい。だから、夜 見るのがいい。


映画の中で、登場人物が映画を見るシーン、というものがとにかく好きなのだ。それがこんなに堪能できる作品もそうなかなかない。


最後に


この〈それぞれのシネマ〉の中の一編、『47年後』 の監督である、エジプトのユーセフ・シャヒーン監督が、この7月27日、脳内出血で亡くなったとのこと、9月15日に記事を読んで知った。82歳で亡くなられた。


1947年渡米、演技を学ぶが帰国後の50年に監督デビュー。社会派作品から歴史映画まで40本以上を手がけ、同じエジプト出身の俳優オマー・シャリフをいち早く見出したことでも知られるという監督。「アレキサンドリアWHY?」(78)でベルリン映画祭銀熊賞、「炎のアンダルシア」(97)でカンヌ映画祭功労賞。


近年の作品では、「11, 09 '01 / セプテンバー11」(02)中の1編、そしてこの〈それぞれのシネマ〉(07)中の1編など。07年の "chaos" が遺作となったという。


合掌




08.8.20 / 9.3