第85回アカデミー賞
おもな受賞結果
- 作品賞:「アルゴ」
- 監督賞:アン・リー(「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」による)
- 主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス(「リンカーン」)
- 主演女優賞:ジェニファー・ローレンス(「世界にひとつのプレイブック」)
- 助演男優賞:クリストフ・ヴァルツ(「ジャンゴ 繋がれざる者」)
- 助演女優賞:アン・ハサウェイ(「レ・ミゼラブル」)
- 脚本賞:「ジャンゴ 繋がれざる者」
- 脚色賞:「アルゴ」
- 外国語映画賞:「愛、アムール」
今日(現地24日)授賞式が行われた、第85回アカデミー賞。今回は、予想だにしない結果となった。何がと言って、それはもちろん、作品賞である。なぜなら、今回の作品賞受賞作品「アルゴ」を監督した俳優ベン・アフレックのことを、昔っから、さんざんみくびってきためである。
ベン・アフレックは、「グッド・ウィル・ハンティング」(ベンとマット・デイモン共同でアカデミー脚本賞受賞)から出演作を見ている。見ているが、その後は、「パール・ハーバー」や「デアデビル」など、いろいろな意味で残念な出演作ばかり見て、その印象が残っているわりに、せっかくヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞した「ハリウッドランド」のような作品に限って見ていない。また、初監督作「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で高評価を得ていたが、案の定それは見ておらず、監督第二作「ザ・タウン」は、見るには見たが、正直、どこがいいのかわからず。こういう経緯でベン・アフレックへのイメージが形成されてきたわけだが、そんな中での「アルゴ」だ。
「アルゴ」は、はっきり言って、面白かった。俳優としてのベン・アフレックも、久しぶりに、素敵に見えた。「ザ・タウン」の時によくわからなかっただけに、「アルゴ」では監督としても、よくぞここまで、と思った。それでも、だ。実話をもとにしているという「アルゴ」である。どうしても、“「アルゴ」がよく出来ているのは 結局は元々のネタがいいからだ” という結論に至ってしまい、ベンを見直す、というふうにならない。
さんざん みくびってきたからこそである、アカデミー賞監督賞にそもそもノミネートもされなかったことについては、なんとも思わなかった。アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞で、「アルゴ」で監督賞を受賞した際には、まさか!、と驚いた。そして今日。ベンが監督した映画「アルゴ」が、アカデミー賞作品賞受賞。ベン・アフレックに関してこれほど驚いたことが、かつてあっただろうか。「アルゴ」は面白かった、本当に。しかし、長年培ったベンへのみくびりは、容易には なくならないのである。
ほかの部門でも、アン・リーが二度目の監督賞というのは予想できなかったし、助演男優賞クリストフ・ヴァルツも、あり得るとは思ったものの、「ジャンゴ」公開前につき未見ということもあり、さすがにこれほど短い期間で二度目の受賞は“ない”か、と思っていたら “あった”。主演女優賞は、7:3あるいは6:4の割合でジェシカ・チャステインかジェニファー・ローレンス、と思っていたらジェニファー・ローレンスへ。しかし今回は、作品賞の驚きを越えるものはほかにない。
主演男優賞ダニエル・デイ=ルイス(3度目!)、助演女優賞アン・ハサウェイは、もっとも予想されていた その通りの、そのまんまの結果だろう。外国語映画賞も、予想通りである。5部門でのノミネート、しかも、オーストリア=仏=独合作作品であり、フランス語作品でありながら、外国語映画賞(オーストリア代表扱い)のみならず作品賞にもノミネートされるほどの評価を得ている。作品賞、外国語映画賞の両方にノミネートされているなら、外国語映画賞の受賞は間違いない、と思った。この「愛、アムール」(来月9日公開)に驚くことといえばむしろ、予告編映像を見た限りだと、ミヒャエル・ハネケ監督作品でありながら、“あの”毒気がまったく感じられない、という点だ。イザベル・ユペールの姿を見て、ああ、ハネケ作品だなぁと、やっと思うくらいのことである。どういう心境の変化か。それとも、予告でなく、全編通して見たら、ハネケ監督特有の毒が感じられたりするのだろうか。
なにはともあれ、「アルゴ」の受賞には本当に驚いた。
2013/2/25