「ヒプノティスト-催眠-」 ラッセ・ハルストレムが撮るサスペンス

特集上映〈THE NORTH SIDE もうひとつの北欧〉の1本

Hypnotisören

THE HYPNOTIST

2012 スウェーデン

原作:ラーシュ・ケプレル 『催眠』

監督:ラッセ・ハルストレム

出演:トビアス・ジリアクス

    ミカエル・パーシュブラント

    レナ・オリン

ラッセ・ハルストレム監督が、これまで制作したことのなかったサスペンスを手がけたということで、(期間と回数の限られる特集上映中の1本であるということもあり、急いで)見に行った。スウェーデンに戻って映画を撮ったのは、ずいぶんと久しぶりのようである。

 

原作のある作品であり、なおかつ、その原作を読んでいないため、いったいどこまで原作小説に忠実に描かれ、どれほど映画版独自の表現がなされたか、ということに関しては判断しかねるが、細かい設定等も有効に生かされていた点(一見、登場人物の日常の出来事であっても、そのことが結果として事件の展開に影響を与えている等)や、出演俳優の演技、人物描写の細やかさ、冬のスウェーデンを映した薄青いようなイメージの映像などもあいまって、サスペンスとしては、繊細な作品という印象を受ける。

 

第83回アカデミー賞において外国語映画賞を受賞した「未来を生きる君たちへ」(2010/監督:スサンネ・ビア)主演のミカエル・パーシュブラントや、レナ・オリンらが出演。レナ・オリンといえば、「蜘蛛女」(1993)で演じていたマフィアの殺し屋役が、あの、腕がもげてもそのまま逃走するような極端な描写が、あまりに強烈すぎて、のちに主婦などを演じているのを見ても違和感がものすごく、とにかく、「蜘蛛女」のイメージが(自分の中で)長らく払拭できなかったわけだが。今回の役柄は、そのイメージに邪魔されることなく見ることができた。

 

そして、細かい人物描写が、見ていていちいち納得できる、つまり、非常に自然な表現に思える。たとえば、妻(=レナ・オリン)が、医師である夫(=ミカエル・パーシュブラント)の、過去の裏切りをいまだに引きずる様子(電話の相手を気にするも、夫が 何もないからお前からかけてみろ、と言うともういいと拒絶したり、夫に別居を切り出そうとして、一言発した途端に感極まるシーン等)や、誘拐された息子を思うあまり、警察や夫に当たり散らすシーンでの演技。あるいは、その夫が、別居を切り出された瞬間面食らって、手に持っていた眼鏡を一度はかけようと目元までもっていくものの、かけずにそのまま手を下ろすという、動揺を表したシーン。また、主人公である国家警察の捜査官が、ラスト、氷の割れた湖にバスとともに沈みゆく犯人を、必死で助けようとする(=相手が犯人だから見殺しにするのもやむを得ない、という、サスペンスやアクション映画であり得る展開に持っていかない)シーン。そんなシーンや展開が、注意深く見ていると、非常に現実味の感じられる表現がなされており、そういうシーンでの、演技、演出、ともに優れていると思う。

 

医師が催眠療法を行うシーンが、果たして実際のものと比べて信憑性があるのかどうか、とか、この題材なら、実行犯を操っていた人物も、催眠等の手を使って実行犯を操っていたという設定なのかと思ったらそうでもなかった、とか、細かい点についていろいろ言い出すときりがないが(そしてそれらが原作通りなのかそうでないのかは知らないが)、ひとつのまとまりとして全体的な質が高いため、やはり、よくできたサスペンスであると言えるだろう。これまで手掛けたことのなかったジャンルの作品を監督してこの出来というのは、さすがであると思う。

 

 

2013/6/2