「イングロリアス・バスターズ」 会話は長く、こときれる瞬間は短く。
INGLOURIOUS BASTERDS
2009 アメリカ=ドイツ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット
メラニー・ロラン
クリストフ・ヴァルツ ほか
ちゃんとフランス人はフランス語を話し、ドイツ人はドイツ語を話すアメリカ映画、「イングロリアス・バスターズ」。
Ⅰ〜Ⅴの章立てになっているため、一章ごとのエピソードが、テンポの良さなど はなから求めていないかのごとく長く感じられもするものの、その長さが不快という訳では決してない。地下酒場での、ナチス将校になりすました連合国側のイギリス人中尉と バスターズメンバーと 女スパイ、それを見とがめた本物のナチス将校との、相手の腹をさぐり合う会話のシーンは、あれだけの長さながら、一触即発の緊張感を保ち、冗長に感じさせない。
カンヌで男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツの、あのいかにもいけすかない感じ、一見紳士的に振る舞っていながらも、笑い方さえとことん鼻につくような人物像を作り上げた あの演技は、たしかに見事だった。あの作りこみ方は、もはやそういう「型」であると思える。
メラニー・ロラン演じるショシャナと、ショシャナのことを気に入っていた、ダニエル・ブリュール演じる戦争の英雄が、情に訴えることなくあっさり殺し合いになる展開など、タランティーノ映画だからなのか…、と漠然と思った。
映画館は計画通り燃え上がるが、ショシャナはそれを見届けられない。あれは、ショシャナは思いを遂げたことに果たしてなるのだろうか。
ヒトラーもゲッベルスも、史実を無視してあっさり撃ち殺されるに至っては、なんだかもう笑ってしまった。実はヒトラーはこの時死んだ訳ではなく…などという、史実との辻褄合わせも、当然のごとく、一切ないのだった。しかし、この映画においては、それでかまわないのだろう。
09.12.1